[佐野正弘のスマホゲーム業界動向] 公式イベント「Persepolis」に見る、Ingressのビジネス拡大に向けた取り組み

absuke absuke
2015/06/29 (Mon)
スマホゲーム集客


[佐野正弘のスマホゲーム業界動向] 公式イベント「Persepolis」に見る、Ingressのビジネス拡大に向けた取り組み

-はじめに-

本連載では、スマートフォンゲームの主力となっているアイテム課金を取り入れたゲームにフォーカスを当てていますが、
今回はそうしたゲームとは一線を画すビジネスモデルを展開する「Ingress」を取り上げてみたいと思います。
去る6月20日に、宮城県仙台市で実施されたIngressのイベント「Persepolis」から、Ingressのビジネス面での特徴を探ってみましょう。

現実の位置情報とリンクするIngress

Ingressは、グーグルの社内スタートアップであるナイアンティック・ラボが開発しているゲームで、
青の「レジスタンス」と緑の「エンライテンド」のいずれかに所属し、世界規模で陣取りをしながら競い合うものです。

大きな特徴の1つは、現実の位置情報とリンクしていることで、
世界中に配置された「ポータル」をハックしてアイテムを入手したり、
相手陣営のポータルを攻撃して奪ったりしながらゲームを進める必要があることから、
移動しないと楽しむことはできません。

アイテム課金制を採用していないIngress

そしてもう1つの特徴は、冒頭でも触れた通りアイテム課金制を採用していないこと。
Ingressはゲームプレイに必要なアイテムをお金で購入する仕組みはなく、
アイテムを得るにはひたすらポータルをハックするしか手がありません。
この特性が、積極的に移動しながらゲームを楽しむ、熱狂的なユーザーを生み出すのに
一役買っているといえるでしょう。

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▲Ingressは青と緑の陣営に分かれて、世界中に設置された「ポータル」を奪い合いながら、陣取りをしていくゲームだ

プレイヤーに向けたイベントも実施

Ingressは人気の高まりを受け、プレーヤーに向けたイベントも実施するようになりました。
国内では、宮城県石巻市で実施された「Ingress Meetup in Ishinomaki」を皮切りに、
東京、京都で公式ユーザーイベント「XM Anomaly」を開催。
そして6月20日には、宮城県仙台市でXM Anomaly「Persepolis」が開催され、
約4000人のエージェント(Ingressのプレーヤー)が集まりました。

XM Anomalyの特徴

XM Anomalyは、時間に応じて4つの地点で特定のポータルを奪い合い、
ポータル数や、ポータル同士を結んだ「リンク」、
リンクで三角形を作成した「コントロールフィールド」などを基に得点を競い合うもの。
世界数か所で同時にイベントが実施され、その合計得点でレジスタントとエンライテンドの勝敗を
決めるというのが、主な内容となります。

強固なコアユーザーを抱えるIngress

Persepolisのイベントを実際に見て感じるのは、やはりユーザーの熱心さです。
地方都市に4000人もの人数を、国内だけでなく海外からも集めてしまうというのは、
いかにIngressが強固なコアユーザーを抱えているかを理解できるのではないでしょうか。

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▲仙台で実施されたXM Anomaly「Persepolis」には、日本だけでなく香港や台湾などからもエージェントが
訪れて朝から列をなし、約4000名がイベントを楽しんだ

コアユーザーを意識したイベント展開

ナイアンティック・ラボ側も、コアユーザーを意識してイベント展開しているのを
見てとることができます。
今回のイベントは東日本大震災からの復興支援も意識した内容となっていることから、
女川や岩手、八戸など東北の地方自治体の商品販売ブースが用意されましたが、
それと同時に同人誌即売会の如く、ユーザーが作成したグッズの販売もなされていました。
さらにステージ上では、Ingressを通じて知り合ったカップルがステージ上でプロポーズをするなど、
エージェント達が共感でき、一体感が得られる内容を多く展開していました。

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▲会場では東北各地の地方自治体だけでなく、愛好家が制作した同人誌やグッズなども販売されていた

ガンホーフェスティバルと対照的な取り組み

これらの内容を見ると、前回紹介したガンホーフェスティバルとは対照的な取り組みといえますが、
そもそもIngressは移動しないと楽しめないという特性があるため、
広範囲に、自主的に移動できる社会人でないと楽しみにくいものです。
それだけに、イベントではプレーヤーのすそ野を広げるよりも、
コアユーザーの満足度を高め、継続利用に繋げることに重点を置いたと見ることができるでしょう。

国内大手企業が相次いて連携企業として加わる

社会人がコアユーザーという特性は、そのまま可処分所得の多いユーザーを抱えていることにも繋がり、
ひいてはIngressのメディアとしての価値も高めることにも繋がっています。
これまでにも、Ingressではローソンやアクサなどと提携したプロモーションが進められてきましたが、
今回のXM Anomalyではさらに、伊藤園や三菱東京UFJ銀行、ソフトバンクモバイルなどの国内大手企業が、
相次いで提携企業として加わったことが発表されています。

企業広告をうまくゲーム内に溶け込ませるIngress

こうした企業の広告を、単にバナー広告や全面広告として見せるだけでは
プレーヤーの不快感を高め、ゲームの評価を落としてしまいます。
そのためIngressは、企業の特性を活かしたアイテムやポータルをゲーム内に登場させ、
ゲームに溶け込ませながらプレーヤーにメリットを与え、
不快感を与えずに企業PRを実施しているというのも、非常に特徴的といえるでしょう。

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イベントを通じたIngressの取組にみる、学ぶべき要素

世界規模でリアルタイムに対戦するというIngressのゲームシステムは、
ある意味グーグルが関わっているからこそ実現できるものといえ、
同じゲームシステムを実現することは容易ではありません。
ですがユーザーの熱心さをうまく活用したり、
ゲームにうまくプロモーションを溶け込ませたりするなど、
イベントを通じたIngressの取り組みからはスマートフォンのゲームビジネスを広げる上で
学ぶべき要素が多いのではないでしょうか。

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執筆者紹介
佐野 正弘(さの まさひろ) モバイルジャーナリスト 福島県出身、東北工業大学卒。
エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。

■定期執筆中の媒体
「佐野正弘が斬る! ニュースなアプリの裏側(日経BP社)」
「佐野正弘のスマホビジネス文化論(アイティメディア社)」 など多数。